世界恐慌が奪ったオーガスタの「幻の19番ホール」

01.ゴルフの話題
01.ゴルフの話題

2026年のマスターズ期間中、Golf Digestが「Masters 2026: The secret 19th hole at Augusta National that was never built」という記事を公開し、大きな話題を呼んだ。

オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブには、誰もが知る美しい18ホールの裏に、日の目を見ることのなかった「幻の19番ホール」が存在したというのだ。

一発逆転を狙える19番ホール

19番ホールの発端は、マッケンジー自身の着想ではなかった。

Clifford Roberts(クリフォード・ロバーツ)やスポーツライターのGrantland Rice(グランランド・ライス)ら、クラブの幹部たちが「本物の19番ホールがあったら面白いのではないか」と考えた。負けたプレーヤーが最後に賭けを倍にして一発逆転を狙う、スコットランド発祥の「バイホール」の文化——それを「Double or Quits(倍か無か)」のホールとして形にしようという発想だった。Bobby Jones(ボビー・ジョーンズ)も承認し、コース設計者のAlister MacKenzie(アリスター・マッケンジー)が設計を引き受けた。

発案がロバーツたちの側にあったことは、マッケンジー自身が1932年に発表した「Plans for the Ideal Golf Course」からも明らかだ。彼はその中でこう記している——

"Clifford Roberts, Grantland Rice and some of the other governors thought it might be interesting to have a real nineteenth hole, so that the loser could have the opportunity of getting his money back by playing double or quits."

90ヤードに仕込まれた罠

約90ヤードのパー3というコンパクトさながら、設計は巧みなものだった。

位置は現在の9番グリーンと18番グリーンの間、クラブハウスと平行に走るエリア。グリーンはプラトー(高台)形状で、2つのバンカーに挟まれた一端が非常に狭く、もう一端は広い。

ピンが狭い側に立てられた時には、高い技術と決断力の両方が要求される。マッケンジーは自身が設計したカリフォルニア州のLakeside Golf Club(レイクサイド・ゴルフクラブ)のホールを参考にしながら、リスクと報酬が凝縮されたデザインに仕上げた。

マッケンジーが描いたとしたら——AIが再現した19番グリーンの設計図

左側の広いエリア(Wider End)はロングアプローチを受け入れ、右側の狭いエリア(Narrow End)は精度を要求する。バンカーはグリーン前面と右側を守り、ミスショットを受け止めつつグリーンの個性を保つ形状。等高線はグリーン面が左奥から右前方へ緩やかに落ちることを示している。

マッケンジーの1932年の記述をもとに、当時の製図スタイルでAIで生成してみた。

当時、19番ホールを持つコースはアメリカでも非常に珍しく、マッケンジーが知る限りニューヨーク州のKnollwood(ノールウッド)とデトロイトのTam-O-Shanter(タム・オー・シャンター)の2カ所だけだった。

世界恐慌が奪った夢

しかし、時代がそれを許さなかった。

1930年代初頭のオーガスタは世界恐慌の直撃を受けていた。入会金350ドル、年会費60ドルという低い設定にもかかわらず、ロバーツが目標とした1,800人の会員は集まらず、3年後の実態はわずか76人。

18ホールを維持するだけで精一杯という財政状況の中、追加の1ホールを作る余裕はなかった。19番ホールの計画は静かに棚上げになった。

もし19番ホールが造られていたら——AIによる完成予想イメージ

もし19番ホールが造られていたならという想定でAIで生成してみた。

奥に見える19番グリーンの形状は原案に近い形で再現できているが、手前左側の9番グリーン、右側の18番グリーンの形状などは正確な再現には至っておらず、あくまでも全体の雰囲気を伝えるための想像図である。

「幻のホール」は今も残っている

ここからが、この話の最も興味深い部分だ。

19番ホールそのものは作られなかったが、その「痕跡」は形を変えて今も残っている。ティーが立つはずだった場所(18番フェアウェイ左)は、向きを反対に変えてクラブ最初のドライビングレンジとして使われた時期があった。現在のドライビングレンジとは全く別の、今はもう存在しない施設の話だ。

そしてグリーンが予定されていた場所はパッティング練習グリーンになった。マスターズの中継で、前年覇者がチャンピオンにグリーンジャケットを着せる、あの場所。実はそこが、ロバーツたちの「面白そうだ」という一言から生まれ、マッケンジーが丁寧に設計した「幻の19番グリーンの場所」だったのだ。

もう一つ、興味深い話がある。世界恐慌でクラブ運営が苦境に立たされたからこそ、資金確保のためにマスターズの開催が動き出したという側面があるのだ。つまり19番ホールを潰した世界恐慌が、皮肉にもマスターズという世界最高峰のトーナメントを生んだとも言える。クラブの運営が順調だったら、マスターズはなかったかもしれない。ひとつのホールが消えた代わりに、ゴルフ界最大の祭典が生まれた。

以前にオーガスタ・ナショナルを訪れた時には、この話を知らなかった。次に訪れる機会があれば、第1ティーに向かう前にパッティンググリーンに足を止めてみようと思う。マッケンジーの夢の残像が、そこにかすかに残っているかもしれない。

オーガスタナショナルゴルフクラブの全ホールの写真

     

I’m a golf-a-holic man. ゴルフバカです。

ゴルフのためなら世界中どこでも行きます。食事とお酒も大好きな食いしん坊ゴルファー。

2026年現在、世界25か国・地域で日本国内約600コース、海外は約300コースをラウンド。ゴルフの腕前は平均スコア90前後のエンジョイゴルファー。

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