離島ゴルフと私
私は今まで世界中を旅して世界TOP100にランクインしている有名コースから閉鎖直前のコースなど12年間で850コースほどのゴルフコースをラウンドしてきた。
そして、最近は離島ゴルフにフォーカスしてゴルフ旅を楽しんでいる。
私が離島ゴルフの魅力に憑りつかれたきっかけは2012年に行ったハワイのモロカイ島へのゴルフ旅である。
アイアンウッドヒルズというコースをラウンドした時に中学生ぐらいの島民の子どもたちがTシャツにサンダル姿でゴルフを楽しんでいる光景を見た。この日のプレイヤーは島民の子供たちと私のみ。のんびりとした素敵な時間を楽しめた。そして、それぞれの島ごとにそれぞれのゴルフ文化があることを知った。
それ以来、時間を見つけては離島を訪れ、独自のゴルフ文化を楽しんできた。
小値賀島と宇久島
私がゴルフ旅で訪れたい日本国内の離島は、残り数島となり、その中に五島列島の「小値賀島(おぢかじま)」と「宇久島(うくじま)」がある。
この2島のコースをこよなく愛する知人でゴルフコース設計家の八和田さんから「数年後、平原(ひらばる)ゴルフ場に太陽光発電のソーラーパネルが設置され、閉鎖する」という驚きの情報を昨年末(2019年)に得て、とにかく急いで計画を立てることにした。
そう思っていたら、今年(2020年)の2月頃から新型コロナウイルスが世界中で流行し、日本も4月に緊急事態宣言が発出されて、旅行どころではなくなってしまった。
5月末には宣言は全国で解除されたが、7月に入り再び感染者数が増えていき、社会が落ち着くのはまだ先になりそうである。
そんな中、私は両島の観光客受け入れの情報を日々チェックしていて、4月以降、来島自粛をお願いしていた両島が7月下旬に来島自粛を条件付きで緩めたのを知った。
このタイミングを逃すと、今後の新型コロナの予測ができないので、両島の観光事務所に連絡をして来島を受け入れてくれることを確認した後、8月4,5日に島を訪れることにした。
(※日々、新型コロナに対する各都道府県・各島の観光客受け入れ条件は変わるので、読者の皆さんも慎重に検討と行動をお願いしたい。)
小値賀島で出会った究極のクラブライフ
最初に佐世保から高速船で小値賀島に向かうことにした。朝に出港して、11時前に小値賀島に到着。
下船すると、今回お世話になる浜崎鼻ゴルフ場を運営管理してる島民有志のゴルフクラブ「はまゆう会」のメンバーの山崎さんが笑顔で出迎えてくれた。(浜崎鼻ゴルフ場をラウンドするにはメンバーの同伴が必要)
宿泊する「民宿ちとせ」に荷物を預けると、山崎さんが「まずは軽くゴルフしましょう」と山崎さんの車に先導されてゴルフ場に。
駐車場に車を停めて、最初はクラブハウスの中を案内していただけた。もともとキャンプ地の管理小屋をクラブハウスに利用しているようで、雰囲気のよいログハウスの中にはハンディキャップボードなどが設置されていた。
そしていよいよ念願の浜崎鼻ゴルフ場に。ゴルフ場の入り口には「ゴルフ場・キャンプ場・浜崎鼻放牧場」と印されたゲートがあり、ゲートの先に見える緑色のゴルフコースの向こうには地平線に広がる青い海と水色の空。一気にテンションが上がる。
以前は放牧地としても使用されていたので視界を遮るものがなく、コースに立つだけで心地よい。世界中のゴルフコースを訪れてきたが、この解放感は唯一無二かもしれない。
浜崎鼻ゴルフ場は全5ホールでパー18。パー5とパー4が1つずつ、あとはパー3だ。これを4周してパー72になる。
1番ホールは115ヤードのパー3。ティーの横の看板には「ホールインワン 焼き鳥こにし賞」と書いてある。
ホールインワンすれば、島の焼き鳥屋で焼き鳥が食べれるのだろう。他の全ホールも島の家具屋やガソリンスタンドなどが協賛していて島全体で支えているゴルフ場なのがわかる。最初のティーショットはわずかにショート。アプローチの時にピンフラッグがかなり短いことに気づいた。
山崎さんに聞いてみると「風が強いので、ピンを短くしてるんですよ」と教えてくれた。
午前中は1周だけして、昼食で町に戻った。たった30分ほどのゴルフだったが、とても充実した時間を過ごせた。
昼からのゴルフの時間を約束して一旦解散。昼食後、まだ時間があるので島内をドライブした。火山の島だった名残で砂浜が赤い砂のビーチや、ゴルフ場の対岸にある五両ダキという火口が侵食してできた崖など小値賀島の独特な自然を楽しんだ。
そして再びゴルフ場に。到着すると山崎さんが「はまゆう会」の他のメンバーも呼んで私を待っていてくれた。昼からは4サムだ。
私が一番気に入ったホールは2番のパー5だ。グリーンを狙うショットが海に向かってのショットで小さなグリーンの奥はすぐ海。左には斑島、右には美しい五両ダキが一望でき、絶景の空間の中で緊張感のあるショットを楽しめる。
最終の5番ホールのクリフ越えのホールも素晴らしい。201ヤードでパー4だが、この景色も日本では珍しく、そしてグリーンは硬くてまずこの距離で1オンは難しい。今日は微風だが強風の日は更に難しくなる。アプローチ勝負のホールだ。
昼からは5ホールを3周ラウンドして、浜崎鼻ゴルフ場を堪能させていただいた。
ゴルフ後は「18時頃から焼き鳥屋で一杯いかがですか?」とお誘いがあり、民宿は食事付きだったが、さっと食べて合流させていただくことにした。
民宿に戻り、夕食の時間を早めてもらうお願いをして、シャワーを浴びた後、部屋で昼寝し、何もしない贅沢な時間を過ごした。
夕食の時間になり、食事の量を見て驚いた。刺身なんて3人前ぐらいある。さすが漁師が経営している民宿だ。
女将さんは「焼き鳥屋に行くんだったら、無理して全部食べなくてもいいよ」とおっしゃっていただけたが、完食してから合流した。
「焼き鳥こにし」は、島のゴルファーが集いゴルフ談義をする場であった。そうあの1番ホールのホールインワン賞の焼き鳥屋である。飲みながらいろいろとクラブのことを教えていただいた。現在、はまゆう会のメンバーは50名ほどで名誉メンバーなどを入れると100名ほどの組織。古参メンバーと若手メンバー間の会話を聞いていて素晴らしいと思ったことが世代の壁がないことだ。どちらもお互いをリスペクトしてゴルフやコースのメンテナンスについて語りあう。メンバー自身が分担してコースを管理していて、コースに対する愛情がとても感じられた。
ゴルフコースと共存している本当の意味のゴルフクラブがここにあった。
話が弾み、あっという間にウイスキーのボトルが空に。ボトルを追加して、夜遅くまで交流を楽しんだ。
そして翌朝。朝食後、もう一度、島内をドライブしてみることにする。朝食に出てきた特産の生節に味付けしたものが美味しかった。
夕食の時もそうだったが、女将さんは食事中ずっとそばにいて世間話をしながら食事ができて、まるで親戚の家に泊まりに行ったような感覚になった。またここに泊まりたいと思う。
ドライブした先は浜崎鼻ゴルフ場から見える五両ダキの横にある放牧地の長崎鼻。ラウンド中もあの場所にゴルフコースを作ったら良さそうだなと思っていたら、八和田さんからもあの土地は素晴らしいのでぜひ見に行ってほしいと教えていただけたので、島を去る前に行ってみることに。
行ってみるとそこにはペブルビーチGLやオーストラリアのニューサウスウェールズGCを彷彿させる景色が広がっていた。どちらも世界TOP100にランクインしている素晴らしいコースである。頭の中でここがティーボックスで、あの場所にグリーンを配置してとワクワクしながら、その牧草地を散歩した。小値賀島を訪れる方はぜひとも長崎鼻にも足を運んでほしい。
宇久島への船の時間になり、港に。山崎さんも見送りに来ていただいて再会の約束をして乗船。
消えゆく運命にある宇久島の日本ゴルフ遺産
小値賀島から宇久島には高速船でわずか20分。到着後、まずは島内をドライブ。宇久島にもゴルフコースが造れそうなよい土地があった。大浜海水浴場の砂丘と向こうに見える牧草地だ。3ホールほどしか造れないがよいホールができそうだ。朝に続き、妄想ゴルフを楽しんだ。
お昼時なのでまずは腹ごしらえ。食堂で鯨カツカレーをいただいた。宇久島も小値賀島もかつては捕鯨の島であった。今では高級食材だがその名残を味わうことができる。
昼食を終え、平原ゴルフ場に向かうことにする。
旅の前に宇久町観光協会にゴルフを問い合わせをしたら、メンバーに伝えておくので自由に回ってよいとのことだった。カーナビの誘導でゴルフ場の駐車場に到着。
1番ティーは駐車場のすぐそばにあった。
コースからは海が見渡せて、浜崎鼻ゴルフ場より敷地は広く、崖の上の牧草地にあるので、その分、ダイナミックな印象を受けた。パー4が5ホール、パー5が1ホール、パー3が3ホールで全9ホールのパー34。
真夏の炎天下の中、ティーオフ。1番、2番は左に海を見ながら、進んでいく。
3番は打ち上げのパー3だった。3番グリーンに上がってコースを見渡すとあまりの絶景に思わず声をあげてしまった。
何より一番感動したのは4番ティーから見るコースの風景だった。世界中のコースをラウンドしているのでわかるが、日本にない景色に息を呑んだ。
続く5番のクリフ越えのパー5、6番の打ち下ろしのパー4、7番の海越えで打ち上げのパー3とワクワクするホールが続いた。
前日に続き、日本にいて異国情緒を感じることができる素晴らしいコースだった。小値賀島の浜崎鼻にはスコットランドの空気を感じ、宇久島の平原にはアイルランドの空気を感じた。どちらも間違いなく日本のゴルフ遺産である。
ラウンドを終えて「井原旅館」にチェックイン。夕食時に旅館の大将が「ゴルフで来島ですか?私もゴルフのメンバーなんです。」と話しかけてきてくれて、しばしゴルフ談義。
この素晴らしいコースが閉鎖されるのはとても残念だと伝えると、「コースがある場所の工事の着工は少し先で、閉鎖まではまだ時間がある。先日は栃木県のゴルフ場のオーナーが来島して、コースに感銘してゴルフカートを寄贈してくれた。」という話を聞くことができた。
翌朝チェックアウトの時、大将から「いつでもゴルフをしに来てください。次は一緒に付き合います。」と言っていただけて、再会とコース存続の協力を約束して港に向かった。
港へ向かう途中、カフェがあり、船までの時間つぶしで入店すると、こちらの店主も私のクラブケースを見て「ゴルフですか?」と、そこからゴルフ談義。島のゴルフクラブのメンバーは現在30名ほどらしい。島のご婦人たちも会話に入り、とても島民に愛されているゴルフコースであることがよくわかった。
太陽光発電のプロジェクトは止められそうにないが、宇久島に日本のゴルフ遺産があることを情報を発信して、多くの方に知ってもらい、存続できる可能性を少しでも高めていけたらなと思いながら、島を去った。
自分たちでコース管理をして、そして楽しむゴルフ。
究極かつ原点のゴルフライフが小値賀島と宇久島にはあった。