来月に行われる知人の還暦祝いの会に、特別なカクテルを作ろうと思った。
還暦なので赤い色のカクテルを作ろうと思い、以下のレシピのカクテルを考えた。
沖縄のラム〈コルコル赤〉をベースに、沖縄県産のハイビスカスシロップとライムジュース、そしてホワイトキュラソーの定番であるコアントローをシェイク。
グラスの縁には沖縄県産のハイビスカスソルトをまとわせる。
そんなイメージから生まれたのが「コーラルレッド」というカクテルである。

世界最古のトリプルセックに辿り着くまで
試作を重ねるうちに、どうしても気になったのがベースに使うホワイトキュラソーだった。
メジャーなコアントローは間違いのない選択だが、誰もが知る味では驚きがない。
還暦の祝いにふさわしい特別な一杯にするには、もう少し“背景のある”ボトルを使いたかった。
コアントローはホワイトキュラソーの中でもトリプルセックと呼ばれていて、Triple(三倍)Sec(辛い)という言葉を初めて使い始めたと主張していて、かつてはトリプルセックとボトルに印刷していたが同じようにトリプルセックという言葉で販売する競合他社が溢れてきたので、差別化を図るためにトリプルセックという言葉は使わなくなった。
そこで、世界中のトリプルセックを調べ始めた。
Bols、Luxardo、Marie Brizard……どれも既視感がある。
そんな中でふと目にとまったのが「Combier L’Original d’Orange」という名前だった。
1834年、フランス・ロワール渓谷のソミュールで誕生したコンビエは、世界最古のトリプルセックとして知られている。
菓子職人ジャン=バティスト・コンビエが生み出したそのリキュールは、三度の蒸留によってオレンジの香味だけを純粋に引き出し、甘さを抑えたドライで透明感のある味わいを持つ。
その約40年後に登場したコアントローは、オレンジピールの風味が三倍に凝縮され甘さが少ないバランスのリキュールを発売し、「トリプルセック」という言葉を世界に広めた。
同じ名前を冠していても、両者のアプローチはまったく異なる。
コアントローは甘みと香りに厚みを持たせ、丸みのある味わいでカクテル全体を包み込むように仕上げる。
一方のコンビエは、香味を極限まで澄ませ、柑橘の苦味と清涼感で輪郭を際立たせる。
どちらも完成された美しさを持つが、「コーラルレッド」のように素材同士の個性を活かすカクテルには、コンビエの方が馴染むのではないか?
そんなことを考えて、すぐに取り寄せを決めた。
届いたボトルを開け、コンビエとコアントローを飲み比べてみた。

どちらも甘さは大きく変わらないが、一言で違いを表すと、華やかさのコアントロー、クリアなコンビエ。
今回のカクテルの味を引き締めるのにコンビエがぴったりだった。
コーラルレッドという一杯の完成
グラスの縁にハイビスカスソルトをまとわせ、シェイカーにコルコル赤、ハイビスカスシロップ、ライムジュース、そしてコンビエのソミュールを入れてしっかりとシェイクする。
できあがった液体は、赤というよりも珊瑚のようなやわらかな朱色をしていた。

ハイビスカスの酸、ライムの爽やかさ、そこにコンビエのドライなオレンジが加わると、全体がきゅっと締まり、香りがすっと伸びる。
沖縄のラム・ハイビスカスシロップ・ハイビスカスソルトと、フランスのソミュールのトリプルセック。
遠く離れた二つの土地の色と香りが、一杯の中で混ざり合い、朱色の爽やかなカクテルに。
還暦のお祝いにふさわしいカクテルが完成した。お祝いの会は2週間後、もう少しブラッシュアップしようと思う。



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