おでん小町を後にして、中の町からゲート通り方面へ歩く。ゲート通りを進むと、「PRINCE」というネオンが目に入る。
コザの夜を語るうえで、どうしても外せない店、老舗のAサインバー、プリンスである。


ネオンの下までいくと「スナック喫茶 プリンス」と書かれた看板と赤い階段が現れる。
Aサインとは、かつて米軍が基地の外の飲食店に与えていた営業許可証のこと。衛生面などの基準をクリアした店だけが盾のようなプレートを掲げることができ、プリンスも当時そのAサインを持っていた一軒であった。いまは制度そのものは存在しないが、「Aサインバー」という言葉は、米軍統治期の空気を色濃く残す店の象徴として生きている。


急な赤い階段を上がり扉を開けると、天井から壁までびっしりと1ドル札が貼られた空間が広がる。ベトナム戦争の時代、戦地へ向かう米兵たちが「無事に戻ってこられますように」と願いを込めてサインを書き、貼っていった札が積み重なったものだという。その下に、ネオンの明かりと赤いソファ、年代物のボトルが並ぶカウンターが続き、時間の層がそのまま店内に堆積しているような光景である。

案内されたのは、カウンターの角のいちばん居心地のよい席。

アメリカを意識してバーボンをロックでオーダー。
すると、量たっぷりなバーボンが。
この遠慮のなさこそ、コザの夜の懐の深さであると感じながら、ドル札の天井を見上げてゆっくりと味わった。





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