夕食は、コザのアーケードから少し離れた繁華街・中の町にあるおでん小町へ。
中の町は、スナックやバー、弁当屋が深夜まで灯りを落とさない飲み屋街で、コザでも一番“夜の顔”が濃いエリアだ。
そんな中の町の一角で、昔ながらのおでん鍋を守り続けているのがこの店である。

入店すると、カウンターのいちばん奥、湯気を立てるおでん鍋の前の席を指さして「どうぞ」とすすめられた。特等席で、うれしい。
すぐに店主から「持ち帰りのお客さんがいるので、ちょっと時間かかるんですいませんね」と丁寧に声をかけてくれて、そのやり取りだけでこの店の空気が伝わってくる。
見ると、常連客が自前の鍋をカウンターに置き、店主がその鍋にてびちや大根、たまごを丁寧に詰めていくところだった。
自分はビールを飲みながら、その光景をぼんやり眺めて待つ。

注文したのは、てびち・大根・野菜・玉子。

野菜は小松菜を手でパキっとちぎり、鍋に入れて20秒ほどさっと茹でる。
てびちは骨のまわりまでトロトロに煮込まれていて、コラーゲンが唇にまとわりつくような濃厚さなのに、臭みはなくて出汁のうまみだけが残る。
大根は中心までしっかり出汁が染みているが、箸を入れても形が崩れない火の通り具合で、噛むたびにじわっと汁がにじみ出る。
たまごは白身の表面にうっすら色が入り、黄身までほのかに味が入ったタイプ、酒のいいアテになる。
どれも美味しかったが一番感動したのは小松菜。
ほんの一瞬だけ湯をくぐらせただけのシンプルなおでんなのに、シャキッとした食感と青菜の香りがそのまま生きていて、出汁をまとった茎の甘さがたまらない。
小松菜が主役のおでん、最高だった。

途中から酒をビールから泡盛に変更。
カウンターに並ぶボトルの中から北谷長老を選び、ロックでオーダー。
「お酒強いのね。でも北谷長老はロックが一番いいよね」と店主。
「そうですね。ロックがおいしいと思います」と答えると、出てきたグラスは氷の上からなみなみと注がれていた。
こういう太っ腹な一杯が、コザという街の良さそのものだと感じた夜だった。

会計のとき、店主がふと「この後、どこか飲みに行くの?」と声をかけてくる。
「そうですね、バーに行こうと思います」と答えると、間髪入れずに「それなら“プリンス”ってバーにぜひ行ってみて」とおすすめが返ってきた。
「あ! そこに行くつもりでした」と思わず笑うと、「いい店よ〜」と嬉しそうな顔。
中の町のおでん屋から、ゲート通りの老舗バーへ。
コザの夜が、地元の人のひと言で自然につながっていく瞬間だった。



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