インド最古のゴルフコースを徹底的に調べなおしてみた

28.インドゴルフ
28.インドゴルフ

インドはかつて大英帝国の植民地だったので、ゴルフも古くからプレーされていた。だからこそ「インド最古のゴルフコースはどこか?」という問いは、調べるほどに情報が混線しやすい。

1820年にバンガロールでゴルフ?

「インド最古のゴルフコースはどこか?」と調べ始めると、

ネット上では “1820年にバンガロールで英国外初のゴルフクラブができた” という説明が、年表テンプレのように繰り返されている。実際、Historic UKのようなサイトでも、バンガロールを1820年と断定する記述が見られる。

しかし、これは私は間違った情報だと考えている。

この“1820バンガロール説”は、クラブ側の一次情報と整合しない。

まず、混同されやすい Bangalore Club(社交クラブ) は、公式史で 1868年に正式設立(Bangalore United Services Clubとして) と明記されている。

Bangalore Club


そしてバンガロールのゴルフは Bangalore Golf Club(BGC)が1876年創設を明確に掲げており、軍の射撃場・訓練地として使われていた土地で始まったという由来も含めて、クラブ自身が公式に説明している。(WebサイトのURLもhttps://bgc1876.com/と1876という数字がしっかりと入っている)

Bangalore Golf Club


一方、同じバンガロールには競馬の Bangalore Turf Club(BTC)が1920年12月1日の創設として公式に語られている。

Bangalore Turf Club

もちろんこれら3つのクラブとは関係ないクラブ・もしくはコースが1820年にバンガロールに存在していた可能性も否定できないが、そういう一次資料が全く見当たらないのだ。どのWebサイトも簡単に1820年に英国以外で最初のクラブがバンガロールで存在していた。と簡単に紹介しかされていない。

ここから先は私の仮説である。
「Bangalore」という地名に「Club」という言葉がつく組織が複数存在し、しかもジャンルが“社交”“ゴルフ”“競馬”で異なる。クラブ史を追いかける者なら区別がつくが、クラブ文化に慣れていない人が雑にまとめれば、Bangalore Club(1868)/BGC(1876)/BTC(1920)を同一線上の“バンガロールのクラブ史”として混同することは十分に起こり得る。

そこで 1920が1820と書き間違えられ(あるいは読み違えられ)、短い一行の年表テンプレとしてコピペ増殖した──この筋書きが、ネット上の“1820バンガロール”の広がり方を最も自然に説明すると思う。

少なくとも、Bangalore Clubが公式に1868、BGCが公式に1876、BTCが公式に1920を語っている以上、1820だけが独立して正しいとは考えにくい。

インド最古のクラブ・そしてインド最古のコースはどこか?

インドのゴルフ史を整理するとき、まず最初に切り分けておきたいのが「クラブ」と「コース」である。
クラブは“組織の設立”であり、コースは“どこでプレーが続いてきたか”という話になる。同じクラブでもコースの場所が移っている例があるため、「最古」を語るなら定義を分けないとすぐに混線する。

ここでは、

  • インド最古のゴルフクラブ(=組織として最古)
  • インド最古のゴルフコース(=現存し、同じ場所でプレーが連続している可能性が高いコース)

この2つを分けて整理する。

ここで軸になるのが1829年に創設された Royal Calcutta Golf Club / ロイヤル・カルカッタGCである。

ロイヤルカルカッタGCから時系列にインド初期のゴルフクラブについて調べてみた。

1829:Royal Calcutta Golf Club(RCGC)

設立は1829年3月(当時 Calcutta Golf Club)

1829年にDum Dum に9ホール(1897に閉鎖)で開場。 まもなくMaidan にも2つの9ホール増設(最終的に1939までに閉鎖)

現在地(Tollygunge)は 1910/11/20に9ホールで開場 1912/12/22に18ホールに増設

つまりRCGCは「クラブとして最古」だが、“最初のコースの場所”は現存していない(現在地でのプレー開始は1910)。

1843:Royal Bombay Golf Club(“独立クラブ”としては消滅)

Royal Bombay Golf Clubは、Bombay City Gazetteerの記述では1843年1月9日に創設され、その後いったん消滅と復活を繰り返し、1869年にRoyal Bombay Golf Clubとして再編、1875年にBombay Gymkhanaへ統合されたと書かれている。

この系譜はインドのゴルフ史として重要だが、「現存するクラブ/現存するコース」という枠からは外れる。

1850?:Trivandrum Golf Club(一次情報なし)

設立(言い伝え):1850年代に存在したという伝承がある。

文書で確認できる造成期1893–1895にコースとクラブハウス造成

つまり「1850年代説」は魅力的だが、公式が自ら断言しておらず、現状は“最古の現存コース”の決め手にするには弱い(一次情報が出れば化ける)

1876:Bangalore Golf Club

Bangalore Golf Clubは、クラブ側の説明として1876年6月24日という起点がはっきりしている。

元は陸軍の射撃場・訓練地だった土地で始まり、当初12ホールから発展し、2002年に再構築して18ホールになったという流れで語られている。

少なくとも、今回整理した候補の中では、「現存しているコース」の起点が1876まで遡れる可能性が最も高いのがBGCだと考えている。

1876:Jorhat Gymkhana Club(ただし現所在地の確度は1885が強い)

Suraj Kumar Das, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

Jorhat Gymkhana Clubも1876年創設として紹介されるが、クラブ記念誌(1976年)由来の記述では、1876当時のクラブ/コースは現在地とは別の場所にあったとされ、現在のクラブハスの原型(2階建て部分)は1885年に建てられたと書かれている。

つまり「クラブ創設は1876年」であるが、「いまのコースが1876年から同じ場所で続いている」とは言い切りにくく、所在地の連続性という観点では1885年になる。

もちろんバンガロールがイギリス国外で最古のゴルフクラブだという間違えている可能性が高い情報より、ロイヤルカルカッタがイギリス国外で最古のゴルフクラブだと伝えているサイトやメディアのほうが多い。

インド最古のゴルフクラブ・ゴルフコースの結論

以上を総合すると、インド国内限定で考えると現時点での結論はこうなる。

  • インド最古のゴルフクラブ(組織として最古)は、Royal Calcutta Golf Club(1829)である。
  • インド最古のゴルフコース(現存していて同じ場所でプレーが連続している可能性が高いコース)は、Bangalore Golf Club(1876)の可能性が高い。

そして今後、もし「1850年代のTrivandrumでゴルフが行われていた」こと、あるいは「1876以前のバンガロールでゴルフコースが存在した」ことを裏づける一次文献(当時の新聞、官報、連隊日誌、議事録、書簡など)が見つかったなら、その時は結論を更新し、改めて追記したい。

英国外で世界最古のゴルフクラブ・ゴルフコースは?

ただし、ここでもう一段、視野を広げる必要がある。
「英国外で世界最古のゴルフクラブ=ロイヤル・カルカッタGC」という言い方はよく見かけるが、これも厳密には正確ではない。

以前の記事でも触れた通り、アメリカ・チャールストンにはSouth Carolina Golf Club が1786年に存在し、彼らがプレーしていた場所として Harleston’s Green が言及されている。

チャールストン観光や州の情報サイトなども、ハーレストンズ・グリーンを“アメリカ最初期のゴルフが行われた場所”として紹介している。
したがって、「英国外で“確認できている世界最古”」(現存はしない)という枠では、1786年にプレーが確認できるハーレストンズ・グリーンが先に来る、という整理になる。

つまり、現時点での私の結論は

  • 現存する英国外で世界最古のゴルフクラブ:ロイヤル・カルカッタGC(1829)
  • 現存する英国外で世界最古のゴルフコース:ロイヤルカーラGC(アイルランド・1852)かポーGC(フランス・1856)かその他か調査中。
  • 英国外で世界最古(確認できている)のゴルフクラブとコース:サウスカロライナ・ゴルフクラブ(1786)

そして、先にも説明したが“1820年インドのバンガロール”というネット情報は、Bangalore Club(1868)・BGC(1876)・BTC(1920)といった別のクラブ史が混線し、年号が転記ミスで置き換わった結果として説明するのが最も筋が良いと、私は現時点ではそう考えている。

もちろん、もし将来 「1820年のバンガロールにゴルフコース(またはゴルフのプレー)が存在していた」と裏づける一次文献(当時の新聞、連隊日誌、クラブ議事録、書簡など)が見つかったなら、その時はこの世界最古の結論を更新し、改めてこの記事で取り上げたい。

現状では、確認できる史料とクラブ公式情報をつなぎ合わせたとき、私の仮説がいちばんつじつまが合っていると思う。

     

I’m a golf-a-holic man. ゴルフバカです。

ゴルフのためなら世界中どこでも行きます。食事とお酒も大好きな食いしん坊ゴルファー。

2021年6月現在、日本国内約600コース、海外は約300コースをラウンドしているコースマニア。現在、世界中をゴルフ旅しています。ゴルフの腕前は平均スコア90前後のアベレージゴルファー。典型的なエンジョイゴルファーです。

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