海南島に来たら、どうしても体験したいと思っていた文化があった。
それが「老爸茶(Lǎo Bà Chá)」である。
「老爸」というのは、海口の方言で“地元のおじさん”のような意味を持つ。
朝や午後になると、そんなおじさんたちが、道端に並べられたテーブルでお茶を飲みながら点心をつまみ、会話を楽しむ。
そうした光景が、この名の由来になったのだという。

海口市内にある老爸茶の一軒、「聚福安老爸茶」に足を運んだ。
老爸茶の文化は、20世紀初頭の南洋交易時代にさかのぼる。
当時、海南からマレーシアやシンガポールへ渡った華僑たちは、 現地のコピティアム(喫茶店)文化に影響を受けた。 帰郷後、その習慣を海南に持ち帰り、 お茶を飲みながら語らう空間が生まれた。
戦後には庶民の社交場として発展し、 商人、労働者、退職者が毎朝顔を合わせる地域のサロンとなる。 新聞を読み、将棋を指し、世間話を交わす。 この「老爸茶」という言葉には、 父親世代の温かい人間関係と郷愁が込められている。

カウンターには、蒸籠に入った点心がずらりと並ぶ。
客は好きな点心をトレイに取り、伝票をもらい、好きなテーブルで食事をするセルフ方式。
どの蒸籠からも湯気が立ちのぼり、厨房の奥では職人たちがせわしなく動いている。


スープ類も豊富である。


烏龍茶、鉄観音、普洱(プーアル)茶などから好きなお茶を選ぶ。
私は「官廷普洱」を注文した。
茶壺とピッチャーがセットで運ばれ、自分で湯を注ぎながらゆっくりと味わう。


周りの客を眺めていると、本当にのんびりとお茶や食事を楽しんでいる。
海南では「食事をする」というよりも、茶を飲みながら過ごす時間を楽しむことが目的なのだと思った。



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