海南島で夕食を食べることができるのはあと二晩。
滞在中、いろいろと名物料理や特産品を食べてきたが、まだ食べたいものがたくさんある。
海南の名物を一度にいろいろと食べらそうな琼菜记忆·经典海南菜というレストランを見つけた。
海口市を拠点とする飲食企業が経営していていくつか支店がある。私が訪れたのは世贸店。
店名にある琼菜は海南料理の別名である。

入り口から入ってすぐのエリアは生簀で食べたい食材を自分で選ぶことができる。食べたかった和楽蟹と沙虫を見つけたので迷わずオーダーした。


生簀の横の冷蔵コーナーにも、魚の浮袋やナマコなどの高級食材もずらりと並んでいる。


テーブルに座り、メニューを開くと、これまた食べたかった椰子飯と石山黒豆豆腐が目に入ったのでこちらもオーダーした。


更に白切文昌鶏、東山羊、海南粉、海南椰子包など、これまで旅で出会ってきた海南島の名物料理がずらりと揃っている。
この店だけで海南島のグルメを網羅できると言っても過言ではない。






まずは、海南島で何度か飲んできた雪花純米。中国で最も売れているビールで、この日も最初の一杯はそれにした。

最初に出てきたのは沙虫の料理。
海南島では光村鎮の光村沙虫と文昌の文昌东阁沙虫が有名でこの店は後者を使用している。
日本ではスジホシムシと呼ばれ、魚の餌などに使われることもがあるが、海南島や中国南部では滋養食として知られ、特に文昌市一帯では高級珍味として扱われているという。
水槽の中でうねうねと動く姿から別名「海の腸」とも呼ばれていて少々グロテスクだが、火を通すと見た目の印象とは裏腹に驚くほど美味い。
マテ貝のようなコリコリ、シコシコした歯ごたえがあり、噛むほどに旨みが広がる。
酒の肴としても最高で、紹興酒よりも、海南のライトなビールがよく合った。今年食べた記憶に残る最高の一品になるのは間違いない。


続いて運ばれてきたのは、石山黒豆豆腐を使った料理。
この豆腐は海口の石山火山地帯で育つ石山黒豆という小粒の黒豆を使っており、手が込んだ製法で作られるため、しっかりとした食感と黒豆の香ばしさが特徴である。
辛くない麻婆豆腐のような料理で、黒豆のしっかりとした味と豚のひき肉の旨味が溶け合い、深みのある味わいだった。


そして椰子飯。その形から椰子船とも呼ばれている。
ココナッツジュースを取り出した椰子の実を器として使い、もち米をその中に入れて、パームシュガーとココナッツミルクを加え、蓋をして沸騰した湯で煮込み。冷ました後、ココナッツの実を船の形にカットして盛り付ける。ココナッツの香りがふわりと立ち上がる上品なおこわのような一品だった。
このあたりでビールがなくなり、海南島のお酒はないかと店員に訪ねてみた。
レジの後ろに並んでいたボトルの中から見つけたのが三威牛大力酒という薬草酒。
海南島の特産植物の牛大力というマメ科の植物の根を漬け込んだ、いわば海南島の養命酒のような存在だ。
本来は食後酒に飲むのかもしれないが、ほどよく薬草の風味がするリキュールでライトな紹興酒にハーブを効かせたような風味だったので、私は食中酒としても楽しんだ。


そして、満を持して運ばれてきたのが、海南島の万寧市・和楽で獲れた旬の和楽蟹。
ちょうど4月でベストシーズン。割られた甲羅の断面を見ると内子がぎっしりと詰まっていた。


蟹の身の味はしっかりとした味で、ねっとりした内子と蟹味噌を混ぜていただくと、凝縮した蟹の旨味が口いっぱいに広がる。先ほどの牛大力酒と合わせると、まさに完璧なマリアージュだった。

海南の火山大地が育てた豆腐と椰子の実。そして海南の海が育んだ蟹と沙虫。
そのどれもが、土地の力を感じさせる味だった。
海南の恵みを一夜で堪能できた、心に残る夜になった。



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