タイ初日の締めはこちらのバー、Vesperで。
Asia’s 50 Best Bars 2025で29位に入っていて、Convent Roadで2014年から続く、バンコクの実力派バーのひとつでもある。
店内は、ヨーロッパ風の落ち着いた空気がある。近年はロンドンのThe SavoyのAmerican Barで経験を積んだトム・ハーンがバーマネージャーを務めていて、2025年には “Rémy Martin Legend of the List Award” も受賞している。

人気店だけあって、この日も入店待ちが数組いた。
ただ、外にもテーブル席があり、そこで飲めるか聞くともちろん大丈夫とのこと。まずはVesper Martiniをオーダーした。Vesper Martiniは3種類から選べるようで、私はクラシックなレシピのClassic Vesperにした。外で飲みながら待っていると、店の人が気を配ってくれて、店内の席が空いたタイミングで優先的に案内してくれた。
ベスパーマティーニは「007カジノロワイヤル」に登場した本来のレシピはゴードンジン・ウォッカ・キナリレ・レモンピールだが、こちらではタンカレー・Ketel Oneウォッカ・コッキアメリカーノ・オレンジビターズにレモンピールで再現していた。


続いて頼んだのはPerfect Manhattan。
一軒前に行ったBar USのほうが、世間的にはランクも上で評価も高い。けれど、私自身は断然こちらのほうがクオリティの高いカクテルを飲ませてくれると感じた。奇をてらうのではなく、クラシックカクテルをきちんと踏まえたうえで、少しだけツイストしている。そのバランス感覚がとても好みだった。


次に、タイのスピリッツで何かないかと聞いてみると、Choeng Doi Blancというスピリッツを出してくれた。
このお酒は、チェンマイ北部チェンダオのChoeng Doi Distilleryが造る、フレッシュなサトウキビジュース由来のクラフトスピリッツで、ラムに近いが、より土地の個性を意識して造られたタイの新しいクラフトスピリッツのようだ。
面白いのは、複数の畑・エステートの原酒をブレンドし、前年までの原酒も少しずつ残して次の年に受け継いでいく造りであること。泡盛の仕次ぎにも通じる発想で、こうした造りはパーペチュアルブレンドと呼ばれる。さらに、シェリーで用いられるソレラ製法の考え方にも少し似ていて、古い原酒を次の酒へ少しずつ引き継ぎながら、味わいに連続性を持たせているらしい。
タイにはメコンウイスキーという名前の酒があるが、あれは実際には麦芽由来のウイスキーではなく、主に糖蜜と米から造られるタイのスピリッツで、分類としてはラムに近い存在として語られることが多い。Choeng Doi Blancは、そうしたメコンとはまた違う、より純粋なラム系スピリッツだという。
これでダイキリをオーダーした。これがまた、余計なことをせず、安定して美味しい一杯だった。


このあたりで帰ろうかとも思ったのだが、隣にいた中国人の女性が話しかけてきた。
彼女も世界中のバーを巡っているらしく、そこからすっかりバー談義になってしまった。
結局そのまま話が盛り上がり、先ほどのChoeng Doi Blancを使用してXYZをオーダー。さらにネグローニまで飲み、気づけば深夜まで飲み明かしていた。


Vesperは、クラシックと創作の両方を高いレベルで、しかもバランスよく提供してくれる安定感のあるバーだった。派手な驚きで押してくるのではなく、ちゃんとした一杯を、ちゃんとしたサービスで飲ませてくれる。
旅で一度だけなら派手な演出のバーも面白い。
けれど再訪するなら、断然こういうバーのほうがいいと思う。



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