ホーチミンでスピークイージー(隠れ酒場)巡りをしていたときに立ち寄った「Hybrid Saigon」で、バーテンダーから「本店はニャチャンにあるんですよ」と教えられて以来、ずっと気になっていた。
ニャチャンの路地を進んでいく。

路地の奥にひっそりと看板を掲げる「Hybrid Nha Trang」を発見。

店内に入ると、波のうねりを思わせる天井のライティングが印象的な空間が現れた。

この夜、最初の一杯に選んだのは STAR SEED。
名前の響きもいいし、何より大好きなベトナムのクラフトジン「Sông Cái」が、ウォッカも造っていると知って興味が湧いた。ソンカイのウォッカは飲んだことがなかったので、迷わずオーダーした。

グラスの上には大きな葉が一枚浮かび、その上に小さな虫がちょこんと乗っている。よく見るとコオロギだ。
いろんなカクテルを飲んできたが、虫がトッピングされているのはさすがに初めてで、思わず笑ってしまう。
好奇心旺盛な性格なので、こういう“仕掛け”はむしろ大歓迎だ。

STAR SEED の中身は、lá lốt(ラロットという葉)、パイナップル、スターフルーツ、ゴマ油、Sông Cái Vodka、ネイキッドモルト、そしてクリケット(コオロギ)。
バーテンダーによると、この葉っぱの植物には本当にコオロギがよくとまっているらしく、その風景を一杯のカクテルに閉じ込めたコンセプトだという。コオロギをかじってみると、ナッツのような香ばしさがあり、トロピカルな酸味とハーバルな香りの中にうまく溶け込んでいた。
二杯目は、名前に惹かれて UGLY ROSES を。
レシピには “morinda fruit ‘nhau’(ノニ)、エルダーフラワー、グリーンアップル、スモークドローズ、スモーキーウイスキー、Greenall’s Gin” と並んでいる。

一口飲むと、最初に立ち上がるのはリンゴとエルダーフラワーの香りだが、すぐ後ろからスモーキーなウイスキーが追いかけてきて、口の中に“フローラルなブレンデッドスコッチ”が広がる。名前は“UGLY(醜い)”だが、味わいはかなりエレガントだった。
締めの三杯目は、バーテンダーにこの流れで最後に何で締めるのがいいのかおススメを聞いてみた。
するとMAESTRO MUSHROOMを進めてきたのでそれをオーダー。
メニューには しいたけ、ハチミツ、チキンファット、梅、乳酸、Monkey Shoulder と書かれていて、もはやカクテルというより前菜の説明文に近い。

実際に飲んでみると、鶏油としいたけのうま味がベースにあって、そこへ梅と乳酸の酸味がアクセントとして乗る。ウイスキーが全体をまとめてくれるおかげで、スープでもソースでもない、“液体の出汁系オールドファッションド”のような不思議な一杯になっていた。
会計をお願いすると最後に、バーテンダーがハウスインフュージョンのスピリッツをショットグラスでサービスしてくれた。
度数はそれなりにあるのに角がなく、三杯の実験的なカクテルを飲み終えたあと、最後に一口でキュッと締めてくれる、そんな一杯だった。





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